欠勤を有給休暇に振り替える義務はあるの?

投稿日時 2015年10月20日 | カテゴリ: メルマガ

こんにちは。
社会保険労務士の杉山 加奈子です。


今回は、「欠勤を有給休暇に振り替える義務はあるの?」をテーマにお話させていただきます。

労働者は、労働基準法の定める継続勤務と8割出勤という要件をみたせば、勤続年数に応じ年次有給休暇を取得する権利を当然に取得します。
使用者は、この従業員の年次有給休暇を取得する権利を拒むことはできません。
使用者の唯一の権利として、従業員が請求する時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、使用者は、他の時季に変更することができます。
これを時季変更権と言います。(労働基準法 第39条第5項)
つまり、従業員が自らの年次有給休暇の権利を行使するためには「請求」という行為が大前提なのです。

時々、従業員が年次有給休暇を請求することなく、「来週の水曜日、子供の授業参観があるのでお休みさせてください。」「今日体調が悪いので、お休みさせていただきます。」といった申し出による欠勤をした場合に、従業員の同意もコンセンサスもない中、年次有給休暇に一方的に振り替え、賃金を欠勤控除しないで満額支給するといった取扱いをよく耳にします。
従業員の病欠や私用による欠勤も、年に数回程度だし、日常業務をがんばってくれているので、事業主も目くじら立てることもなく、特に意に介していないことが多いようです。しかし、そういったことを慢性的、慣習的に長期に渡って行っていると、従業員に対し、欠勤しても、賃金は欠勤控除されることなく満額払われるものだと誤解を与えかねず、思わぬトラブルに発展することもあります。

ある関与先で、精神疾患で長期無断欠勤していた従業員が、退職後に欠勤していた期間の未払い賃金に対して、少なくとも有休残相当額は支払ってもらう権利があると、当然のように主張してきました。

事業主側は、働いていないのだからノーワーク・ノーペイの原則に従って賃金を支払う義務はない。年休は請求して初めて効力が発生するもので、今回の無断欠勤を有給休暇に振り替える義務はない。と強く主張しましたが、これまで長きにわたって従業員の欠勤を当然のように年次有給休暇に振り替えてきた事業主としては、「これまでは温情的な措置で、今回の無断欠勤は温情措置に値しない。」との言い分は、なかなか従業員に納得してもらえるものではありませんでした。また、厄介なことにユニオンを介してきたため、一筋縄でいきませんでした。
従業員とのコンセンサスもない中、勝手に欠勤を有給休暇に充てていたこと、就業規則を作成しておらず、年次有給休暇に対しての取り決めを全く決めていなかったことも相手の主張をより強めるものとなってしまいました。

就業規則に、
「年次有給休暇を取得するときは、少なくとも前日までに会社に申し出ること。」
「突発的な傷病その他やむを得ない事由により欠勤したときは、会社の承認により当該欠勤を年次有給休暇に振り替えることができる。ただし、その承認は会社の裁量により必ず
行われるものではない。」

とさえ記載していれば、この条文を根拠に事業主側も強く主張できたでしょうし、またユニオン側の主張も違っていたのかもしれません。
いろいろと悔やまれるところです。


欠勤を有給休暇に振り替える義務はありませんが、上記のような事例も含めて、就業規則の整備、従業員への周知は徹底しておいてください。


●   編集後記 ●

社労士として、トラブル案件に関わるたびに、日々の労務管理がいかに重要か痛感させられます。
多くの事業主の方が労務管理の重要性を分かってくれなくても、うっとうしがられても、社労士の使命として常に注意喚起していきたいと思います。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。




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