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減給の制裁とは?

2013年11月20日
おはようございます。
社会保険労務士の杉山 加奈子です。

今日は、「減給の制裁」をテーマにお話させていただきます。

「減給の制裁」とは、懲戒処分の1つとして労働者の企業秩序違反行為等に対して、労働者が本来受けるべき賃金の中から一定額を差し引くことをいいます。


労働基準法第91条で、「就業規則で減給の制裁を定める場合は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。」

と定められており、差し引くことができる金額に制限が設けられています。
つまり、減給するときは、不祥事1回につき平均賃金の半額まで、不祥事が複数回あった場合でも、月額賃金の10%までしか減給できません。
減給の制裁にこのような制限があるのは、制裁としての減給の額があまりに多額であると労働者の生活を脅かすことになるためです。

「平均賃金」とは、「平均賃金を算定すべき事由」の発生した日以前3ヶ月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額をいいますが、細かいことはさておき、遅刻・早退、欠勤、残業等一切考慮せず、大まかに考えれば、月の賃金の総額が30万円であれば、30万円÷30日(歴日数)=1万円 と理解していただければ分かりやすいかと思います。

月額30万円の場合、遅刻3回につき不祥事1回とし、5,000円の賃金減額。
仮に、21回遅刻をした場合、7事案(21回÷3回)となり、5,000円×7事案=35,000円。
この場合、月額30万円の10%を超えるので、その月には3万円しか減給できません。翌月に残金の5,000円を減給することになります。

賃金の一支払期に21日の遅刻?
減給の制裁どころではないような気がしますが、それはさておき、減給の制裁においては、このような考え方になります。

遅刻に対して、遅刻した時間に相当する賃金だけを差し引くことは一つの賃金計算方法ですので、制裁としての減給に該当しませんが、例えば、30分の遅刻に対し、半日分の賃金をカットするというようなことは減給の制裁とみなされます。

実際、従業員の遅刻が多い会社の対応策として遅刻3回につき、半休扱いにする処理をしているケースはよく見受けられます。平均賃金の半日分を減額する代わりに、半休扱いにしているわけですが、本来、有休は従業員の請求により発生するものなので、従業員の同意なしに強制的に半休で処理することは出来ません。ただ、賃金が減額されるよりも半休を充てることを望む従業員が大半でしょうから、実務上そんなに問題にならないかと思われます。

時々、遅刻1回につき、減給の制裁として半休扱いにしても問題ありませんか?と
いった質問を受けますが、懲戒の事由と減給のバランスが悪いように感じます。
あまりにもバランスが悪いと、寝坊して、数分遅刻することが分かった時点で、どうせ半休扱いになるのだったら、午前中は家でゆっくりくつろいでいようといった負の要素が働いてもおかしくないからです。



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編集後記 ●

よく、テレビで不祥事を起こした役員が、役員報酬の20%を3ヵ月カットとかいう話を耳にしますが、役員は労働者ではないので、労働基準法の対象にはならず減給の制裁には当たりません。
仮に、役員でなく部長クラスの場合であっても、減給の制裁ではなく、自主返上という形を取っているのでしょうね。

つい最近では、例の不祥事でみずほの頭取が役員報酬半年返上とのニュースがありましたが、こちらの処分に対し甘いという世間の声が上がりました。
労働基準法で手厚く守られている労働者とは扱いが大きく異なることに興味深く感じた次第です。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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